深夜営業届の名義変更はできる?
事業承継・法人化のときの手続き
お店を誰かに引き継ぐとき、あるいは個人で始めた商売を法人にするとき。多くの方が「名義変更をすればいいんですよね?」とおっしゃいます。ところが、深夜営業の届出に「名義変更」という手続きはありません。ここを知らずに進めると、気づかないうちに「無届で深夜営業している状態」になりかねません。
- 深夜酒類提供飲食店営業(深夜営業届)には、「名義変更」という手続きが存在しない(届出営業のため)。
- 営業者そのものが変わるとき(事業承継・法人成り・相続)は、旧営業者の「廃止届」+新営業者の「新規届出」のやり直しになる。
- 同じ営業者のままの変更(氏名・名称・住所・代表者氏名・店名・構造設備)は「変更届」。期限は原則10日以内、法人の名称・住所・代表者氏名の変更は20日以内。
- 新規やり直しは受理日から10日後まで深夜営業ができないが、段取り次第で空白を作らず切り替えられる(要・所轄事前相談)。
- 落とし穴:保健所の飲食店営業許可は地位承継で引き継げるのに、警察の深夜営業届は引き継げない。
深夜営業届に「名義変更」はありません。引き継ぎは2つに分けて考えます。
・氏名・名称・住所・代表者・店名などの変更 → 変更届(10日以内/登記事項は20日以内)
・営業する人や会社そのものが変わる(事業承継・法人成り・相続) → 廃止届+新規届出のやり直し
迷ったら、まず営業所を管轄する警察署の生活安全課に相談してください。
なぜ「名義変更」ができないのか
深夜0時以降にお酒を提供するバーや居酒屋は、風営法第33条にもとづいて、営業所ごとに公安委員会へ「深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出書」を提出します(広島県では別記様式第47号)。
ここで大事なのは、これが「許可」ではなく「届出」だという点です。
- 許可営業(風俗営業の1号〜5号など)…公安委員会が審査して「許可」を与える制度。
- 届出営業(深夜酒類提供飲食店営業)…「この営業所でこういう営業をします」と届け出る制度。審査して与えるものではない。
届出は「その営業者が、その営業所で営業する」という事実とセットになっています。だから営業者が別の人・別の法人に変わると、それはもう「前の届出の続き」ではなく「新しい人による新しい営業」。前の届出を書き換えて引き継ぐ=名義変更、という発想がそもそも制度にないのです。
ケース別の正しい手続き
ケース1:同じ営業者のままで内容が変わった → 変更届
営業する人・会社は変わらず、登録した内容の一部だけが変わった場合は「変更届」で対応します。たとえば次のような変更です。
- 個人営業者の氏名・住所が変わった(引っ越し・改姓など)
- 法人の名称・本店所在地が変わった
- 法人の代表者(代表取締役)が変わった
- 店名(営業所の名称)を変えた
- 客室の間取りや設備を変えた(軽微な変更を除く)
提出期限は、風営法第33条第2項と施行規則第104条(第42条の準用)により、原則として変更があった日から10日以内です。ただし、法人の名称・住所・代表者の氏名の変更(=法人登記が変わる変更)は20日以内とされています。代表者の交代は「20日以内」グループなので、登記を進めるのと並行して書類を準備しておくと安心です。
なお、代表者ではない平の役員が交代した場合に変更届が必要かどうかは、深夜営業届の「届出事項」そのものではないため、警察署によって運用が分かれることがあります。役員に変動があったときは、念のため所轄の生活安全課に確認してください。
ケース2:個人で始めた店を法人にする(法人成り) → 新規届出のやり直し
「売上も伸びてきたので法人化したい」というご相談はとても多いです。ですが、個人事業主と、新しく作った会社は、法律上はまったくの別人格。深夜営業届の世界では、
- 旧営業者(個人)の廃止届を提出
- 新営業者(法人)の新規届出を提出
という、ゼロからのやり直しになります。届出に手数料はかかりませんが、新規届出は受理日から10日後まで深夜営業ができないため、何も考えずに切り替えると最大10日間の空白が生まれます(空白の回避策は後述します)。
ケース3:別の人にお店を引き継ぐ(事業承継・譲渡) → 新規届出のやり直し
常連のお客さまがお店を買い取って続ける、独立する従業員に譲る、親から子へ継ぐ——いずれも「営業する人」が変わるので、ケース2と同じく廃止届+新規届出になります。看板も内装もメニューもそのままで、お客さまから見れば何も変わらなくても、警察の届出上は「別の営業」として出し直すことになります。
以前、ご高齢の女性がお一人で切り盛りされていたお店がありました。年齢を理由に店じまいを考えておられたのですが、その話を聞いた常連さんが「それなら自分にやらせてほしい」と手を挙げ、お店を引き継ぐことになったのです。
ところが、引き継いだ元常連さんは深夜営業に届出が必要だということをご存じなく、しばらくのあいだ無届のまま営業されていました。たまたまご相談をいただいたことがきっかけで状況が分かり、急いで手続きを整えて、違反状態を解消できたということがありました。
お客さまから見れば「同じお店が続いている」だけ。でも届出の世界では、経営者が変われば出し直しが必要なのです。
ケース4:営業者が亡くなった(相続) → 新規届出のやり直し
許可営業(風俗営業)には地位を引き継ぐ制度がありますが、届出営業である深夜酒類提供飲食店営業には、相続で当然に引き継ぐ仕組みがありません。営業者が亡くなった場合は、亡くなった方の営業についての廃止届と、お店を続ける相続人による新規届出を行います。こちらも実態としては「同じお店をそのまま続ける」ことが多いのですが、手続き上は出し直しが必要です。
深夜営業を止めずに切り替える段取り
「やり直し=10日間お店を閉めないといけない」と思われがちですが、段取り次第で深夜営業を止めずに切り替えられます。実際に空白を作らずに処理できた例として、次のような流れがあります(運用は警察署で異なるため、必ず事前相談してください)。
- 新営業者が、切替予定日の10日前までに新規届出を提出して受理される
- その10日間は、旧営業者の届出のまま深夜営業を継続
- 届出受理から10日後、新営業者の名義で深夜営業が可能に
- 旧営業者は、廃止日(切替日)から10日以内に廃止届を提出
ポイントは「新規届出を前もって出しておく」ことと、「切替のタイミングを所轄と握っておく」ことです。法人成りや事業承継の日取りが先に決まっているなら、逆算して早めに動けば、お客さまに気づかれることなく切り替えられます。
この「受理から10日後」というルールは、意外と知られていません。
あるご依頼で「できるだけ早く警察に出してほしい」と強くお願いされ、いろいろな条件が重なって2日で提出までこぎ着けたことがありました。ご相談の時点で「届出を出して10日後から営業できます」とお伝えしていたのですが、その方は“提出したその日から営業できる”と思い込んでおられたようで、改めてご説明したときにとても驚かれていました。
オープン日や引き継ぎの日取りを決めるときは、この10日を必ず計算に入れてください。
落とし穴:保健所は「引き継げる」のに、警察は「引き継げない」
ここが一番の注意点です。実は飲食店営業許可(保健所)には、名義を引き継ぐ「地位承継届」という制度があります。
- 令和3年6月から:相続・合併・分割による承継が届出でOK
- 令和5年12月13日から:事業譲渡(法人成りを含む)による承継も届出でOK
地位承継届を出せば、保健所は許可を取り直さずに名義を書き換えてくれます。ところが、警察の深夜営業届にはこの「地位承継」の制度がありません。「保健所では引き継ぎの届出で済んだから、警察も同じだろう」と思い込むと足をすくわれます。
| 引き継ぎの場面 | 保健所(飲食店営業許可) | 警察(深夜営業届) |
|---|---|---|
| 相続・合併・分割 | 地位承継届で引き継げる | 廃止届+新規届出のやり直し |
| 事業譲渡・法人成り | 地位承継届で引き継げる (令和5年12月13日〜) | 廃止届+新規届出のやり直し |
| 代表者・店名・住所の変更 | 変更届 | 変更届(10日/登記事項20日以内) |
同じ「店を引き継ぐ」でも、2つの窓口で正反対の扱いになる。これを知っているかどうかで、引き継ぎがスムーズに進むか、開店直前に慌てるかが分かれます。
まとめ
- 深夜営業届に「名義変更」はない。
- 中身だけの変更(氏名・名称・住所・代表者・店名・設備)は変更届(10日/登記事項20日以内)。
- 営業者そのものが変わる(事業承継・法人成り・相続)は廃止届+新規届出のやり直し。
- やり直しでも段取りで空白は防げる。鍵は所轄への事前相談と逆算。
- 保健所は地位承継で引き継げても、警察は引き継げない。窓口ごとに分けて考える。
引き継ぎや法人化は、日取りが決まってから動くと時間が足りなくなりがちです。「いつ・どの順番で・どの窓口に」を最初に設計しておくことが、お店を止めない最大のコツです。
よくある質問
段取りからご相談ください
段取りを誤ると「気づかないうちに無届営業」というリスクがあります。元広島県警察官13年の行政書士が、窓口の運用を踏まえて、お店を止めない最短の段取りをご提案します。