「深夜営業届出のために図面が必要らしいが、自分で作れるものなのか?」「行政書士に頼んだら何万円もかかるなら、自分で作りたい」——図面作成は、深夜営業届出の準備で多くの方が悩むポイントです。
正直に言えば、深夜営業届出の図面は「自分で作ろうと思えば作れる」レベルのものです。風営法許可で必要な図面と比べると、専門的な要素は少なめです。しかし、その「作れる」と「警察に通用する」の間には、思っている以上に深い溝があります。
この記事では、深夜営業届出に必要な図面の種類、自分で作る場合の手順、そして「自分でできる/できない」の判断基準を、行政書士の視点から具体的にお伝えします。
図面の種類は3種類(平面図・求積図・周辺地図)。シンプルな店舗(カウンターのみのバー等)なら自分で作れる場合もありますが、客室が複数ある・特殊な構造の店舗は専門家依頼を推奨します。
1. 深夜営業届出に必要な図面は3種類
まず、深夜営業届出で警察に提出が必要な図面の全体像を整理します。
提出が必要な3種類の図面
| 図面の種類 | 内容 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 平面図 | 店舗内の構造を上から見た図 | 客室・厨房・出入口の位置確認 |
| 求積図 | 客室面積を計算した図 | 客室の広さの数値確認 |
| 周辺地図 | 店舗の位置と周辺を示した地図 | 用途地域・近隣施設の確認 |
これら3種類の図面が揃って、初めて深夜営業届出が受理されます。1点でも欠けていると差し戻しになります。
風営法許可との違い
第7記事「風俗営業許可の費用相場」でも触れましたが、風営法許可の図面はもっと厳格です。深夜営業届と比べると次のような違いがあります。
| 図面要件 | 深夜営業届 | 風営法許可 |
|---|---|---|
| 平面図 | 必要 | 必要(より詳細) |
| 求積図 | 必要 | 必要(小数点以下まで正確に) |
| 周辺地図 | 必要 | 必要(保護対象施設明示) |
| 音響設備・照明設備の記載 | 平面図に落とし込んで必要 | 平面図に落とし込んで必要(より厳格) |
深夜営業届出の図面は、風営法許可と比べれば「シンプル」と言えます。ただし、シンプルだからといって「適当でいい」わけではありません。
「音響構造図」「照明設備図」という独立した図面名でネット記事に書かれていることがありますが、実務上は呼び名が統一されていません。多くの場合、音響設備・照明設備を平面図に落とし込んで表現します。深夜営業届出でもこの記載は必要なので、「深夜営業では音響・照明設備の記載は不要」と書いてある記事には注意してください。
2. 平面図:店舗構造を正確に表現する図
最も時間がかかるのが平面図です。
平面図に書き込むべき要素
- 店舗の外形(壁・出入口の位置)
- 客室の範囲(破線等で明示)
- 厨房・スタッフエリアの位置
- 客席(テーブル・カウンター)の配置
- トイレ・控室・倉庫の位置
- 出入口の方向と非常口
- 各室の用途名
「客室」と「客室外」の区別が最重要
平面図で警察が最も注目するのは、客室の範囲です。客室の広さによって深夜営業の可否や、風営法該当性の判断が変わるためです。
| エリア | 客室か |
|---|---|
| お客様が飲食する客席 | 客室 |
| カウンター内(バーテンダー側) | 客室外 |
| 厨房 | 客室外 |
| トイレ | 客室外 |
| 控室・倉庫 | 客室外 |
| 通路(客が通る部分) | 客室の場合あり |
カウンター内が「客室外」なのは、客が立ち入らないエリアだからです。逆に、客が通行する通路は客室面積に含まれることがあるので、線引きが難しい場合があります。
自分で作る場合の手順
平面図を自分で作る場合、次の流れになります。
| ステップ | 内容 | 所要時間 |
|---|---|---|
| 1. 物件の実測 | メジャーで正確に測る | 1〜2時間 |
| 2. 下書き | 方眼紙やExcelで下書き | 1〜2時間 |
| 3. 清書 | 提出用に清書 | 1〜2時間 |
| 4. 確認・修正 | 寸法のズレを修正 | 1時間 |
合計で5〜7時間程度かかるのが一般的です。図面作成ソフト(JW-CADなど)を使う場合は、ソフトの操作習得も加わります。
当事務所のこだわり:図面はすべて手書きで作成しています
なお、西岡は提出に必要な図面はすべて手書きで作成しています。理由は、僕は警察官時代に犯罪現場の捜査資料を作成していたのですが、その作成はすべて手作業で行っていました。よって、その方が早く正確なものが作成できるからです。
つまり、受理する警察側も「手書きの図面でも正確なものならば十分に受理してくれる」ということです。手書きだから受理されない、ということはありません。大切なのは「正確さ」と「丁寧さ」です。
3. 求積図:客室面積を正確に計算する図
平面図とセットで提出するのが求積図です。
求積図の役割
求積図は、客室の面積が法令の基準を満たすかを確認するための図です。深夜営業届出では客室面積の最小基準は明確に定められていませんが、申請内容の正確性を示すために必要です。
求積の基本
| 形状 | 面積の計算式 |
|---|---|
| 長方形 | 縦 × 横 |
| 三角形 | 底辺 × 高さ ÷ 2 |
| 台形 | (上底 + 下底) × 高さ ÷ 2 |
| 円・扇形 | 半径 × 半径 × 円周率(または比率) |
複雑な形状の客室の場合、複数の図形に分割して合計面積を計算します。これを「求積」と言います。
自分で作る際の落とし穴
求積で多いミスは次の3つです。
- 角の処理ミス:長方形と思っていた客室の角が、実は斜めに切られていた
- 凹凸の見落とし:壁の凹凸を平面と思って計算していた
- 柱の処理:客室内に柱がある場合、その面積を引くか引かないか
これらのミスがあると、求積図と実態の数値が合わず、現地確認で発覚します。図面と実態が一致しないと、書類の信頼性を疑われます。
経験談:飲み屋さんのトイレは、変わった形が多いんです(笑)
深夜営業や風営法の申請が必要な物件は、トイレの形が変わったものが多いです(笑)。五角形や、左右非対称で面積が計算しづらいことが多々あります。結構頭を悩ませることが多いんですよ。
「客室外」とはいえ、トイレも図面に書き込みが必要なため、こうした不規則な形状の処理には経験がものを言います。
4. 周辺地図:店舗の位置と周辺施設を示す地図
最も簡単な図面が周辺地図です。
周辺地図に必要な情報
- 店舗の正確な位置(マーキング)
- 半径100m程度の範囲
- 主要な道路・建物
- 用途地域の境界(必要に応じて)
- 保護対象施設(学校・病院等)がある場合はその位置
自分で作る場合のおすすめ方法
周辺地図は、Googleマップや住宅地図のコピーをベースに、店舗位置をマーキングする方法が一般的です。
| 元データ | 入手方法 | コスト |
|---|---|---|
| Googleマップ | 無料 | 0円 |
| 住宅地図(ゼンリン等) | 図書館でコピー | 数百円 |
| 都市計画図 | 広島市の窓口 | 数百円 |
風営法許可の場合は保護対象施設までの距離測定が必要ですが、深夜営業届出では「保護対象施設の確認」レベルで足ります。
5. 「自分で作れる」店舗 vs 「専門家依頼が安全」な店舗
ここまで3種類の図面を見てきましたが、「自分でできるかどうか」は店舗の構造によって大きく変わります。
自分で作れる可能性が高い店舗
| 特徴 | 例 |
|---|---|
| 客室が1部屋のみ | カウンターのみのバー |
| 形状がシンプル | 長方形の店舗 |
| 柱や凹凸が少ない | テナントビルの平らな区画 |
| 内装変更が少ない | 居抜き物件をそのまま使用 |
これらの条件を満たすシンプルな店舗なら、図面作成にかかる時間と労力は手の届く範囲です。
専門家依頼が安全な店舗
| 特徴 | 理由 |
|---|---|
| 客室が複数ある | 求積計算が複雑になる |
| 形状が不規則 | 凹凸の処理ミスが起きやすい |
| 柱や仕切りが多い | 客室面積の判定が難しい |
| 半個室・区画席がある | 風営法該当性の判断が必要 |
| 内装工事を予定 | 工事後の図面と一致させる必要 |
これらの店舗で自分で図面を作ろうとすると、差し戻しを繰り返して結果的に時間と労力を浪費するパターンが多いです。
6. 元広島県警察官の視点:図面でわかる「申請者の本気度」
僕は元広島県警察官として13年間勤務し、申請書類を間近に見る機会も多くありました。その経験から、図面で見えてくる「申請者の本気度」についてお伝えします。
警察官が図面で確認していること
警察官が図面を見るとき、確認しているのは「正確さ」と「整合性」の2点です。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 正確さ | 数値が実態と一致しているか |
| 整合性 | 平面図・求積図・周辺地図が矛盾していないか |
数値が雑だったり、平面図と求積図で寸法が合っていなかったりすると、その時点で「この経営者は申請に真剣ではない」と判断されてしまいます。
「ピンと来ない図面」の共通点
現役時代に、見た瞬間「これは怪しい」と感じた図面には共通点がありました。
- 寸法の単位がバラバラ(mとcmが混在)
- 客室の境界が曖昧
- 出入口の位置が実態と違っていそうな配置
- 求積の計算式が示されていない
- 周辺地図に店舗位置のマーキングがない
このような図面は、現地確認で実態とのズレが発覚するケースが多いです。警察側からすれば「最初から正確に描かれていれば、現地確認で時間を取らずに済む」のです。
「丁寧でない図面」は、それだけで疑いの目で見られます
なにより、単純に丁寧でないものは、警察も疑って図面を確認することになります。例えば、部屋の壁が歪んで直線でなかったりすると、チェックする警察目線では「本当にこんな壁なの?」という感想から入らざるを得ません。
その時点での警察の物件に対する資料はその図面しかありませんから、仕方のないことなんです。なので、できるだけ丁寧に作成をすることが必要です。
第9記事で触れた「不動産屋の図面細工」を再確認
【元広島県警官が語る】風営法申請で不許可になる典型パターン5選 で詳しくお伝えしましたが、不動産屋さんからもらった図面をそのまま使うのは危険です。
不動産屋さんの作る図面は、賃貸契約のための参考図であって、警察への申請用ではありません。寸法が概算だったり、申請に不都合な部分が省略されていたりすることがほとんどです。例えば、実際には部屋があるのに省略されて書かれていた、というケースも経験しています。
「図面はもらったから、これで申請できる」と思って提出すると、現地確認で大きな食い違いが発覚し、結果的に作り直しになります。図面は必ず、自分の実測または専門家の実測に基づいて作成しましょう。
7. コスト比較:自分でやる場合 vs 行政書士依頼
最後に、図面作成のコストを比較してみましょう。
自分で作る場合のコスト
| 項目 | 費用・時間 |
|---|---|
| 測量道具(メジャー等) | 1,000〜3,000円 |
| 図面用紙・印刷 | 1,000円〜 |
| 図面作成ソフト(任意) | 0円〜数万円 |
| 自分の作業時間 | 5〜10時間 |
| 差し戻し時の修正時間 | 1〜3時間 × 修正回数 |
「実費は安い」のがメリットですが、自分の時間というコストを考慮する必要があります。時給換算で5,000円の方なら、5〜10時間で2.5〜5万円相当の労力です。
行政書士に依頼する場合のコスト
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| 図面作成のみの依頼 | 3〜5万円程度 |
| 申請全体の依頼(図面込み) | 6〜15万円程度 |
「図面作成だけ依頼」というプランを設けている事務所もあります。書類は自分で作りたいが、図面だけは専門家に任せたいというニーズに応える形です。
損益分岐点はどこにあるか
シンプルなショットバー程度の店舗なら、自分で作るほうが経済合理性が高い場合もあります。一方、客室が複数ある、特殊な構造、内装工事を予定している、といった条件があると、行政書士依頼のほうがトータルでお得になることが多いです。
8. よくある質問(FAQ)
ここでは、当事務所に実際あった質問を思い出してまとめました。
9. まとめ
深夜営業届出の図面作成について、ポイントを整理します。
- 提出する図面は3種類(平面図・求積図・周辺地図)
- シンプルな店舗(カウンターのみのバー等)は自分で作れる可能性がある
- 客室複数・形状複雑・内装工事予定の店舗は専門家依頼が安全
- 図面の正確性は「申請者の本気度」として警察に伝わる
- 不動産屋からもらった図面をそのまま使うのは危険
- 手書きでも受理される。大切なのは「正確さ」と「丁寧さ」
図面は深夜営業届出の中でも特に時間と労力がかかる作業です。「自分でやれば安い」と「結局やり直しで時間を失った」の間で、慎重に判断してください。