「気に入った物件が見つかったが、近くに学校がある。風営法は通るのか?」「病院から何メートル離れていれば大丈夫?」——物件選定の段階で、こうした不安を抱える方は多いと思います。

風営法では、教育・医療・福祉に関わる施設の周辺に風俗営業の店舗が集中することを防ぐため、特定の施設からの「距離制限」が設けられています。これに該当する施設を「保護対象施設」と呼びます。

第7記事「風俗営業許可の費用相場」や、第9記事「【元広島県警官が語る】風営法申請で不許可になる典型パターン5選」でも触れてきたように、保護対象施設からの距離不足は、風営法不許可の代表的な原因です。

この記事では、保護対象施設の種類・距離要件・測定方法・物件契約前の確認手順を、行政書士の視点から具体的に解説します。

保護対象施設とは「学校・病院・図書館・児童福祉施設」など。広島県の場合、用途地域と営業区分により距離が定められており、最も厳しいケース(その他地域・1〜4号営業)で100m以上の距離確保が必要です。物件契約前に「半径100m以上に余裕を持って保護対象施設がないか」を必ず確認してください。

1. 保護対象施設とは

風営法上の「保護対象施設」について、まず基本を整理します。

保護対象施設の種類

風営法施行令で、保護対象施設として以下が定められています。

区分該当する施設
教育施設小学校・中学校・高等学校・大学・専門学校・幼稚園
医療施設病院・診療所(入院設備のあるもの)
文化施設図書館
福祉施設児童福祉施設(保育所・児童館等)

これらの施設から、一定の距離内では風俗営業の許可が下りません。

なぜ距離制限があるのか

風営法の目的は、風俗営業による「善良の風俗及び清浄な風俗環境を害する行為」を防止することです。特に教育施設や医療施設の近くに、お酒の提供やネオン看板を出す店舗が集中すると、青少年の健全育成や患者の療養環境に影響が出る可能性があります。

そのため、これらの施設から一定の距離を取ることで、両者の共存を図っているのです。

「保護対象施設」と「規制対象業態」の関係

すべての飲食店が保護対象施設の距離規制を受けるわけではありません。距離制限の対象になるのは、風営法1〜3号営業(キャバクラ・接待飲食店・低照度飲食店等)です。

業態距離制限の有無
通常の飲食店(深夜営業届)なし
風営法1号営業(キャバクラ・スナック等)あり
風営法2号営業(低照度飲食店)あり
風営法3号営業(区画席飲食店)あり
風営法4号営業(パチンコ店・ゲームセンター)あり

第8記事「バー開業に深夜営業届は必要?営業形態ごとに必要な手続きを整理」でも触れたように、通常のバー(深夜営業届のみ)なら、保護対象施設の距離規制は受けません。

2. 用途地域別の距離要件

距離要件は、物件のある「用途地域」によって変わります。

広島県の場合の距離要件

広島県では、用途地域と営業の種別によって、保護対象施設からの必要距離が細かく定められています。

用途地域1〜4号営業5号営業
商業地域70m以上30m以上
近隣商業地域80m以上40m以上
その他の地域100m以上50m以上

「1〜4号営業」とは、キャバクラ・スナック・低照度飲食店・区画席飲食店・ゲームセンター等を指します。「5号営業」は別の区分の営業形態です。詳しくは第5記事「広島の風営法許可とは?4種類の営業許可をわかりやすく解説」もご覧ください。

商業地域とは、駅前・繁華街など主に商業活動を行うことを想定した用途地域です。広島市内では流川・薬研堀・八丁堀などの繁華街エリアが該当します。

近隣商業地域はその周辺で、住宅と商業が混在するエリアです。距離要件が商業地域より厳しくなるのは、住環境への配慮が強くなるためです。

用途地域は事前に確認できる

用途地域は、各自治体の都市計画情報で公開されています。広島市の場合、市の都市計画情報サービスで物件の住所を入力すれば、用途地域が確認できます。

不動産屋さんに「ここの用途地域は?」と聞いても答えられることが多いですが、念のため自分でも確認しておくのが安心です。

用途地域が混在する物件

物件によっては、「建物全体は商業地域だが、敷地の一部が近隣商業地域にかかっている」というケースもあります。この場合、より厳しい方の距離要件が適用されます。

これは個別判定が必要なので、物件契約前に専門家に確認することをお勧めします。

3. 距離の測定方法

用途地域や営業区分で定められた距離は、どこからどこまでを測るのでしょうか。

測定の基本原則

風営法上の距離測定は、次のルールで行います。

測定の起点測定の終点
営業所の敷地境界保護対象施設の敷地境界

注意したいのは、「建物の壁から」ではなく「敷地境界から」という点です。建物が敷地の中央にあれば、建物同士の距離はもっと近い可能性があります。

測定の方法

実務上、距離は次のように測ります。

測定方法内容
直線距離営業所の敷地境界から保護対象施設の敷地境界までの最短直線距離
道なり距離採用されない(直線距離が原則)
注意

「道路で行くと120mあるから大丈夫」と思っていても、直線距離で測れば60mで距離不足、というケースは少なくありません。地図上で直線を引いて確認することが重要です。

建物の一部が学校・病院に該当する場合

複合施設の中に学校・病院が入っているケースは要注意です。例えば「ビルの3階に診療所がある」「マンションの1階に保育所が入っている」など。

この場合、ビル全体の敷地境界が「保護対象施設の敷地境界」として扱われます。診療所自体は3階でも、ビルの1階から距離が測られるので、想像以上に距離不足になりやすいです。

4. 物件契約前の確認手順

保護対象施設の確認は、物件契約前の最重要ステップです。

確認の手順

ステップ内容
1. 用途地域の確認都市計画情報サービスで物件の住所を入力
2. 必要距離の確認用途地域・営業区分に応じた距離(30〜100m以上)
3. 半径100m以上の調査Googleマップで物件を中心に円を描く
4. 該当しそうな施設のリストアップ学校・病院・図書館・児童福祉施設
5. 実地確認現地に行って施設の有無・位置を確認
6. 直線距離の測定地図上で測る or 巻尺で実測

Googleマップでの調査のコツ

Googleマップで物件の住所を検索し、表示された地点を中心に半径100m以上の円を描きます。最も厳しいケース(その他地域・1〜4号営業)で100mが必要なので、安全側に立って100m以上の範囲を確認するのがお勧めです。その円内にある施設を1つずつ確認するのが基本です。

検索ワード確認したい施設
「学校」「小学校」「中学校」教育施設
「病院」「クリニック」「診療所」医療施設
「図書館」文化施設
「保育園」「児童館」「学童」児童福祉施設

ただし、Googleマップに掲載されていない小規模な施設(個人診療所など)もあるので、現地確認が欠かせません。

現地確認のポイント

実地確認では、Googleマップでは分からない情報を得ることができます。

物件の周辺を実際に歩いてみると、地図には載っていない施設が見つかることがあります。30分かけて周辺を1周するだけで、後の不許可リスクを大きく減らせます。

物件契約前の事前調査だけでも歓迎です
物件の用途地域・保護対象施設からの距離を、契約前の段階で確認します。費用感はシミュレーターでご確認いただけます。
料金シミュレーター →

5. よくある誤解と注意点

保護対象施設の判定で、よくある誤解を整理します。

誤解1:「閉校した学校なら大丈夫」

廃校になった元・学校の建物でも、自治体が「学校用地」として保有していれば、保護対象施設として扱われる可能性があります。「もう生徒はいないから」と判断するのは危険です。

誤解2:「個人診療所は規模が小さいからセーフ」

入院設備のない個人診療所(クリニック)は、法令上の「病院・診療所」に該当するかどうかが個別判定になります。基本的には保護対象になる可能性が高いと考えて、距離確認を行うべきです。

誤解3:「保育園が新しく開設されたらどうなる?」

許可取得時には保護対象施設がなかったのに、後から近くに保育園や診療所が開設された場合、既存の許可は基本的に維持されます。ただし、新規申請・変更申請の際には新しい距離関係で判定されるので、長期的には影響があります。

誤解4:「裏路地で見えない位置なら大丈夫」

直線距離が基準なので、建物の見通しや人の動線は関係ありません。「うちのお店は学校から見えない位置」でも、直線距離が足りなければ不許可です。

誤解5:「申請時にこちらから保護対象施設の情報を出さなくてもよい」

注意

申請には「営業所周辺地図」の提出が必要で、その地図に保護対象施設を明示することが求められます。申請者側で保護対象施設を把握・申告するのが基本です。隠して申請しても、警察の現地調査で必ず発覚します。

6. 元広島県警察官の視点:現地確認で見抜くポイント

元警察官の視点

僕は元広島県警察官として13年間勤務しました。その経験から、保護対象施設の距離規制について、現場でのリアルなお話をお伝えします。

警察官が現地確認で見ているもの

風営法許可の申請後、警察官は必ず物件の現地確認を行います。その時に確認しているのは、申請書類の「営業所周辺地図」と実態が合っているかどうかです。

確認項目内容
保護対象施設の有無申請書類で示された施設が実際に存在するか
距離の正確性申請書類の距離が実態と一致するか
申請書類に未記載の施設漏れている保護対象施設がないか

特に重要なのが、3番目の「未記載の施設の確認」です。申請者が見落としていた施設が現地で発見されれば、その時点で不許可の方向に動きます。

ギリギリの物件で起きること

現場のリアル

「ちょうど基準値ぴったり」のような微妙なラインの物件は、申請後の現地確認でしっかり測られます。50cm単位で測られて「99.5mだったので不許可です」となるケースもあります。

ギリギリの物件は、選定段階で避けるほうが安全です。各基準値より10m以上の余裕がある物件を選ぶことをお勧めします。

「保護対象施設」の解釈で揉めるケース

時々、申請者と警察の間で「これが保護対象施設に該当するか」で見解が分かれることがあります。例えば次のようなケースです。

こうしたケースは個別判定になります。物件契約前に管轄警察署や行政書士に相談することで、後のトラブルを避けられます。

7. 距離不足だった場合の選択肢

「気に入った物件が距離不足だった」という場合、選択肢は限られます。

選択肢一覧

選択肢内容実現可能性
1. 別の物件を探す距離要件を満たす物件で再検討高い
2. 業態を変更風営法不要の通常飲食店・深夜営業届に変更検討の価値あり
3. 用途地域を確認し直す物件が思っていたのと違う用途地域だった可能性低いが調査の価値あり
4. 当該施設に問い合わせ廃止・移転予定がないか不確実

業態変更が現実的な選択肢

第8記事でも触れた通り、深夜営業届出の通常飲食店なら、保護対象施設の距離規制を受けません。「キャバクラ」を諦めて「カウンターのみのバー」にすれば、同じ物件で開業できる可能性があります。

ただし、業態を変えるということは、ビジネスモデル自体を見直すことを意味します。「キャバクラのつもりで投資したけど、深夜営業届のバーで採算が取れるか?」という観点で再検討が必要です。

物件契約前なら、選択肢は広い

距離不足が判明する前(物件契約前)なら、別の物件を探すという選択が現実的です。物件契約後だと、敷金・礼金・仲介手数料が無駄になる可能性が高くなります。

「物件契約前の保護対象施設チェック」は、数千円の調査費用で数十万〜数百万円のロスを防げる、最もコストパフォーマンスの高い事前確認です。

8. よくある質問(FAQ)

ここでは、当事務所に実際あった質問を思い出してまとめました。

物件契約後に保護対象施設の存在に気づいた場合、どうすればいいですか?
すぐに専門家に相談してください。場合によっては、距離測定で「ぎりぎり要件を満たす」と判明することもありますし、業態を変更して通常飲食店として開業する選択肢もあります。契約解除の交渉も含めて、早めの対応が重要です。
大学のキャンパスから近い物件ですが、大学生相手のお店なら大丈夫?
客層は関係ありません。風営法は「保護対象施設からの距離」を画一的に判定しており、客層や営業内容では判断しません。物件の用途地域と営業区分による基準距離を満たさない場合は、原則として不許可です。
ビルの上階に診療所が入っている場合、ビルの1階で開業できますか?
同じビル内に保護対象施設がある場合、距離0mと扱われるので原則として不許可です。「同じビル内に保護対象施設がある」物件は風営法対象業態には不向きです。
距離測定を専門家に頼む場合、費用はいくらくらいですか?
当事務所では、物件契約前の保護対象施設調査を比較的低額で承っています。詳しい料金は料金シミュレーターでご確認いただくか、お問い合わせください。物件契約前の数千円のコストで、契約後の数十万円の損失を防げる費用対効果の高い調査です。
駅から徒歩5分、繁華街の中心地ですが、保護対象施設の有無を確認すべきですか?
はい、必ず確認してください。繁華街の中心地でも、ビルの一部に診療所が入っていたり、近くに小規模な児童福祉施設があることがあります。「繁華街だから大丈夫」と思い込まず、半径100m以上を一度確認することをお勧めします。

9. まとめ

風営法の保護対象施設について、ポイントを整理します。

保護対象施設の距離規制は、一見シンプルなルールに見えますが、用途地域・敷地境界・複合施設・廃校廃院など、判定に迷うケースが多々あります。物件契約前の段階で、専門家に確認することが、結果的に最も効率的です。